こどもの病院環境&プレイセラピーネットワーク(NPHC)第8回フォーラム 記録

第8回フォーラム
開催:2006年2月25日(土)13:00〜17:00
主催:こどもの病院環境&プレイセラピーネットワーク(NPHC)
後援:東京電機大学エクステンションセンター
テーマ:「こどものためのホスピタルプレイ(診療前・中・後の遊び支援)」



プログラム)
1.開会の挨拶:NPHC新代表・柳澤要(千葉大学工学部デザイン工学科)

2.ご挨拶:西出和彦(東京大学工学部建築学科)

3.講演:「香港におけるホスピタルプレイとプレイ・スペシャリスト養成コース」
講師:イヴォンヌ・ベッチャー氏(香港大学職業継続教育学部
ホスピタルプレイ・スペシャリスト養成コース,コーディネーター兼講師,NPHC顧問)

4.パネルディスカッション:「病院におけるこどものためのホスピタルプレイ」

パネリスト(講演順)
1)鹿島房子氏(独立行政法人国立病院機構千葉東病院療育指導室主任保育士,音楽療法士)
2)岡田由美子氏(あいち小児保健医療総合センター保育士)
3)田中恭子氏(順天堂大学医学部小児科医師,英国ホスピタルプレイ・スペシャリスト)

5.ディスカッション・質疑(抜粋)

1.開会の挨拶:NPHC新代表・柳澤要氏(千葉大学)
 昨年9月に急逝された,野村みどり先生(東京電機大学情報環境学部・教授)に代わり,こどもの病院環境&プレイセラピーネットワーク(以下NPHC)の代表を勤めさせていただくことになりました。
今回のフォーラムは,「こどものためのホスピタルプレイ(診療前・中・後の遊び支援)」というテーマで,アジアではじめてプレイ・スペシャリストの養成コースを設立した香港の臨床心理士であるイヴォンヌ・ベッチャーさんをお招きしてご講演いただきます。イヴォンヌさんは,オーストラリアで臨床心理学を学び,病院小児科での研究助手を勤めた後香港に移り,こども病院等においてホスピタルプレイに関する実践的調査研究に取り組んできました。そして,その成果を活かして国立香港大学にホスピタルプレイ養成コースを開設し,コーディネーター兼講師として,その運営に携わってきました。
 次いで,パネルディスカッションを行います。パネリストはホスピタルプレイにおいて先進的な試みを実践している病院から,千葉東病院保育士の鹿島房子さん,あいち小児保健医療総合センター保育士の岡田由美子さん,順天堂大学医学部小児科医師の田中恭子さん,をお招きしております。
 イヴォンヌさんは,来日してからすでにこれらの病院を訪れ,医療環境や活動・プログラムを見学しております。パネルディスカッションではその印象を踏まえた上での活発な議論を期待しております。

2.ご挨拶:西出和彦氏(東京大学,故・野村みどり氏のご伴侶)
故人は,自身の入院経験を通して,病院環境のあり方についてさらに課題視し,本研究会の発展を切に願っておりました。活動が充実しつつある現在,そして本日のフォーラムに参加できなかったことは,大変無念であったと思う。故人の残したことを,以後引き継いでいきたいと考えています。

3.講演:「香港におけるホスピタルプレイとプレイ・スペシャリスト養成コース」
イヴォンヌ・ベッチャー氏(香港大学)

 お話しする機会を得たこと,本会の前に日本の病院の視察をさせていただいたことを感謝しています。私は非政府団体「プレイライト」の事業として,ホスピタルプレイに取り組むと共に,1992年6月〜1993年6月,香港の10箇所の病院の協力を得て,「病院において遊びを提供することの意義」について調査研究を実施しました。
 ここでホスピタルプレイの効果と必要性を具体的に明確化しましたが,研究を通じて,遊具の充実や室内環境の改善といった環境・ハード面への配慮と共に,それを有効に活用するスタッフやその育成の必要性が示唆されました。後者に関しては,1994年に香港で最初のホスピタルプレイ・スペシャリストが登場し,1995?97で4つの病院でプレイライトに雇われた7人のプレイ・スペシャリストが勤務しました。幼稚園では,就学時の不安を解消するために適切な働きかけが,通常業務としてなされていますが,就学前の入院児にもそれは必要です。しかも,入院は心身の負担を強いられる状況なのでよりそれが重要となります。入院する子どもへは,適切な物理的環境の設定,安全・衛生面への配慮,正常なコミュニケーションへの配慮が大切です。具体的には,@子どもに安心感をあたえること,A子どもの成長を促進すること,B入院児の笑い・楽しみを誘うこと,があげられます。またプリパレーション(診療前の説明,以下PR),ディストラクション(診療中に気を紛らす),メディカルプレイ(医療行為のデモンストレーション)を通した子どもの理解と気持ちの整理・促進が大切です。
 2003年に香港ではSARSが流行し,プレイ・スペシャリストが病棟に入って直接的なサービスをすることができなくなりましたが,「プレイ・パック」(A4〜B4版程度の大きさのビニールケースに,使い捨てのおもちゃや絵本などを入れたもの)を作成しこれに対応しました。これは好評で,現在も隔離病棟の入院児に対して使用されています。
 ちなみに,香港におけるホスピタルプレイの資格コースですが,1995年10月にイギリスHPS委員会と香港大学SPACE(生涯教育学部)によってまず9ヶ月のコースが認可され,その後このコースは16ヶ月に延長され,これまでに40名の認定プレイ・スペシャリストが誕生しました。しかし資格を持った教育指導者や200時間もの臨床実習の場が確保できない等で,コースは終了しました。しかし2006年3月よりイギリスとは関係なく香港大学SPACEが独自に4ヶ月間の基礎資格コースを立ち上げました。
これからも次のことを念頭に活動していきたいと考えています。「プレイは不安を解消する」「プレイは困難を解消する」「プレイは子どもの生活に必要で,成長を促進する」「長期入院の子どもたちも,われわれ同様に夢がある」。

4.パネルディスカッション「病院におけるこどものためのホスピタルプレイ」

1)「病院における保育士の役割」
鹿島房子氏(独立行政法人国立病院機構 千葉東病院)

 現在保育士は,少子高齢化社会への対応で施行された,次世代育成支援対策推進法(2003年7月)に象徴されるように,多角的な役割が求められています。また保育環境への配慮も大切だと思っています。昨年度,千葉大学工学部の柳澤研究室の協力を得て,当院小児科のプレイルームを改修し,その中で興味をそそるコーナー,くつろぎコーナー,工作コーナー,の3つを設けました。
 2006年,今年度は,同じく千葉大学工学部の柳澤研究室に協力を依頼して,我々療育指導室が所管する第2療育室の改修を計画しております。新しい第2療育室のデザインコンセプトは「森」で,ここで入院児や親子がゆったりと過ごせ,個別性を大切にした空間をめざしています。新しい家具の導入や壁へのデコレーションをはじめ、畳を置いた「タタミハウス」,床からの振動を楽しむことのできる「へびの道」,また感覚刺激を楽しめる「スヌーズレンコーナー」などで構成する予定です。この計画を通じて,この空間を主として利用する重症心身障害児の生活・活動の場の在り方について考える良い機会になりました。また病院以外の外部の専門家が参画することの有用性を再認識しました。今後の保育活動としては,さまざまな関係機関とのより一層の連携強化や地域社会に対する情報発信をしていきたいと考えております。

2)「あいち小児センターにおけるプレイプリパレーションツールの実践報告」
岡田由美子氏(あいち小児保健医療総合センター)

 当センターの保育活動の一環として実施している術前オリエンテーションと,新たに企画した放射線PR(プリパレーション)について報告します。当センターでは術前オリエンテーションとして「おぺらチャンツアー」(おぺら:ドイツ語で手術の意)を実施しています。本ツアーは,入院児用のプレイルームから出発して,総合診療科,麻酔科,手術室,病棟の5箇所を訪れながら,入院児自身が受けることになる手術や入院について知ることのできるスタンプラリー形式(一部,紙芝居を使用)のものです。低年齢児を意識したシンボルキャラクター「おぺらチャン」を使ったこともあり,就学児に加え4-6歳への効果が高かったです。
 また放射線検査PRである「れいチャンのにこぱちツアー」では,シンボルキャラクター「れいチャン」らが,撮影モデルを経験しながら,撮影機器や検査のプロセスなどを理解しやすくしています。検査室を「写真スタジオ」と表現するなど,医療現場の特殊な専門用語を,子どもでもわかる用語に置き換えたことで,低年齢児にもわかりやすくなり,検査・診療に前向きになるように促す効果があります。
ちなみに使いやすいパンフレット形式のPRツールの作成には,シンプルな情報,対象や目的の明確化,更新時の対応への配慮,印刷費用面の考慮(多すぎない文章量)が大切であることがわかりました。今後はインターネットによる情報提供も視野に入れて活動に取り組んでいきたいと考えております。

3)「こどもにやさしい医療ケア」
田中恭子氏(順天堂大学医学部小児科)

 2002年9月に,英国のホスピタルプレイ・スペシャリスト(以下HPS)養成コースへ留学し,2004年1月帰国しました。今回はその経験も踏まえ、医学的観点から,子どもにとっての遊びの意義と子どもへの対応についてお話したいと思います。子どもにとっての遊びですが,心身の発達に加え,社会性,ルール,自己表現,創意,理解力,移動運動力,微細運動力などの獲得・促進の観点からも大切です。病院環境での子どもの心理反応(アメリカVernon1965)には,積極的反応(泣き叫びなど)と消極的反応(過度の睡眠,コミュニケーションの減少など)がありますが,それらの表出の機会としても,遊びは重要です。
 次に痛みのケアとインフォームドコンセントですが,痛みのコントロールにはディストラクションが有用です。痛みの知覚は年齢的に異なり,痛みの特徴を表現できるのは5〜7歳頃からといわれています。3歳頃からもできますが,漠然としたものとなりやすくなります。そして治療自体の痛みなどへの不安や,痛みを予測できないことへの不安が大きく,痛みのケアには絵本,指人形等で構成されたディストラクション・グッズが有用です。またPR(プリパレーション)は,病気に関する情報を子どもに説明し,心の準備をする機会を作る,つまりインフォームドコンセントに有効です。認知発達段階に応じて,説明を理解する,選択する,決定する,決定に対して責任を取る能力は異なります。ピアジェの理論を基に病気という概念の発達をみると,感覚運動期(五感を通して把握している時期)では病気を理解できなく,前概念期は現象的理解,表象的現象として病気をとらえており,具体的操作期になると病気の原因を知ろうとする,と変化します。一般的に7歳以降は説明することできちんと理解できます。
 順天堂大学病院では,玩具メーカーのタカラとの協力でぬいぐるみに内臓を組み込んだ製品を開発してPRに使用したり,海外のPR用グッズを日本の子どもたちの好みに合うように工夫したりしました。ちなみに後者はメンテナンス・管理が困難で使いこなせませんでしたが。他に「もしもしガイドブック」(ぬいぐるみを使って実際の検査室などの利用の様子を紹介した冊子)を作成し活用しています。

5.パネルディスカッション・質疑応答(抜粋)

イヴォンヌ氏:日本の現状では保育士などが活躍していますが,専門職であるPS(プレイ・スペシャリスト)の必要性をどのように考えますか?

鹿島氏:日本ではまず子どもを見てくれる人がいて欲しいというレベルでの活躍となっています。当面はマンパワー,ボランティアの育成が大切と考えます。療養介護職(ヘルパー,介護福祉士)が何千人単位で導入されるといわれる昨今、それらとの協業ができればいいと考えています。

田中氏:PSの導入は大切です。日本の文化に沿った形での導入を望んでいます。

岡田氏:現状は人数を確保するだけで手一杯な状況です。まずは要員を確保して対応したいと思います。
イヴォンヌ氏:PS配置の必要性を説明できるような研究(PSを導入することでどれだけ資金の節約になるかを伝えるような研究)がされるといいと思います。

田中氏:アメリカではそのような研究があり成果があったと記憶しています。

会場:PRで,逆に怖がった子供はいなかったのでしょうか?

鹿島氏:子どもとのやり取りを通して,観察しつつ介入していきます。ステップバイステップ・アプローチで慎重に取り組んでおり,その反応を評価することは難しいですが,怖がったり不適応反応になった子どもは少ないと思います。

会場:かつては,知らない間に治療されることが多かったのですが,息子(23年前入院していた)は,予め治療内容を知ってから行ってもらいたかったと言っています。ステップバイステップ・アプローチと言う言葉を聞いて,すごく頼もしかったです。

柳澤氏:今後の活動で予定していることはありますか? 特にIT(情報技術)を活用した活動などはありますか?
イヴォンヌ氏:4月より子どもが外部とコミュニケーションを取れるようにする働きかけをしています。またこれは病院同士をつなげる活動にもつながるものです。ハイテクなものは,設置などに時間はかかりますが効果はあると思います。しかしそれを駆使した段階でも,専門家が配備されることの重要性に変わりはないと思います。

田中氏:順天堂では,ITの話も出ましたが未開発です。しかしコーディネート役が重要であることは同感します。

岡田氏:当センターでは現在,外来待合空間に,様々な不安や緊張を抱えている子どもが見通しをもって診察を受けられるように,医師の顔写真と診察状況(今何番の患者さんの診察をしているか)がモニターで表示しています。


記録:鈴木健太郎(NPHC運営委員,千葉医療福祉専門学校作業療法学科・講師)
監修:柳澤要(NPHC代表,千葉大学工学部デザイン工学科・助教授)